初恋 染野太朗
ひとの幸せを願へぬといふ罰ありきメロンパン口に乾きやまずき
くるしみを求めてたんだみづたまりに雨降るかぎり死ぬ水紋の
*
きみがぼくに搬んだそれは夏だつた抱へたらもう海に出てゐた
海の色をあをとしか思へぬことのきみをしおもふ気持ちにも似て
花柄のかばんを肩に掛けなほしきみが行かうとつぶやけば行く
聞きづらいときは顔寄せてくれることも灯台の
きみと来て食堂〈煮魚少年〉の味噌煮の鯖を箸にくづしつ
煮魚を食べつつきみと
よろこびがよろこびのまま夏の陽のやうだよぼくは汗をよろこぶ
これもきつと最後の恋ぢやないけれど海風、奪へいつさいの声
〈略歴〉
一九七七年茨城県生まれ。福岡市在住。「まひる野」「太朗」所属。
第一歌集『あの日の海』(本阿弥書店、二〇一一年)にて第十八回日本歌人クラブ新人賞受賞。
第二歌集『人魚』(角川書店、二〇一六年)にて第四十八回福岡市文学賞短歌部門受賞。